3Dプリンターで篠笛を作ってみた:仕上げ編

前回のあらすじ:3Dプリンタ篠笛設計して発注して、いろいろあったけど、白くて綺麗だった!

(多分世界初!)3Dプリンターで篠笛を作ってみた:モデル製作〜到着編
のつづき。

DMM 3Dプリントから届いた篠笛のモデルはそのままでも演奏可能ですが、素体のポテンシャルをさらに引き出すべく仕上げを行いました。

5. 仕上げ

白くて美しい3Dプリント篠笛でしたが、完成までに以下の様に手を加えました。

  1. 吹き込む息の音への変換効率はもっと向上できそう。発散気味?
    →歌口形状の改善
  2. ナイロン素材は表面が粗く、やや多孔質な印象。手垢や汚れを吸着しそう
    →ウレタンニス塗装
  3. 呂音(低音)がよく響くが大甲音が鳴りにくい(重心がかなり低音寄り)
    厚手な造りで素材も硬質な市販プラ管とは真逆の傾向
    →ニス塗装・浸透による素材の硬化と歌口形状の改善

その結果、狙い通り以下のような効果が得られました。

  • 音の変換効率と最大音量が向上
  • 大甲の吹きやすさが向上
  • 呂音(低音)から甲音(高音)までバランスよく鳴るよう改善
  • 塗りと金のアクセントにより質感とデザイン性が向上

 

歌口の整形

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細工カッターで歌口を仕上げます。画竜点睛の睛部分。

歌口部分の内壁にも、積層段差と3Dプリントしたナイロンのざらつきが現れています。これを、細工カッターで少し歌口を拡げるようにカットしていくことで、滑らかな面を出します。
また、今回は単に面だしするだけではなく、適宜音をだしながら好みの歌口形状になるよう微調整をしています。
素の出力時点で、樹脂製ながら低音がよく響き、期待した以上に全体的な音量も出せそうだったので歌口を拡大してキャパアップを実現しています。歌口のサイズ拡大時には、音程が狂わないよう管頭方向に向かって拡げます。
マクロが撮れるカメラが手元になかったので歌口の拡大・比較画像がないのが残念ですが、この写真と、後のギャラリーの写真を見比べていただけると、歌口が一回り大きくなっているのが分かるかもしれません。

ウレタンニス塗装

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突き出した五寸釘が無骨な便利グッズ。

今回は、笛の全体(外側・管内)にウレタンニスを塗装します。塗料のついた笛を乾燥させるときに便利なのがこのアイテム、”ごっすん板〜!”…五寸釘を板きれに打ち通しただけのものです。

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ごっすん板に笛を立てたところ。実際の塗装はホコリの少ないお風呂場にて。後ほど使う真鍮線も写っています。

このように笛を立てておけるので、一度に外周をぐるっと全面塗ることができ、均質な塗装ができます。 写真では管頭パーツを仮にはめ込んでありますが、塗装する際には抜いています。管内の塗りは、太い竹ひごにガーゼをくくりつけた道具を使用(写真取り損ねました…)。 今回つかった塗料は、和信ペイント 水性ウレタンニス つや消しクリヤー です。

  • 水性なので扱いやすく、3Dプリントされた樹脂素材を溶かさない(乾燥すると耐水性をもつ)
  • 食品衛生法に適合しており、 口を触れる部分の塗装にも安心。

 

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塗装前の管頭部。積層段差の模様が一致するように配置します。

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塗装前の管尻。端部は外径のみ一段と先細るようになっている。

塗装前は積層段差のエッジが立っていて、平滑な部分も粉っぽいテクスチャをしていました。
ごっすん板を活用しつつ、全面を下塗りして乾燥した後、仕上げ塗りを行いました。

 

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二度塗り後、半乾燥したものを確認中。

管頭パーツの二度塗り後。管頭になる部分と、歌口側の管内に出る部分は特に滑らかにしたいので三度塗りしています。

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塗装後はややツヤが出て、落ち着いた独特の質感に。

ニスはつや消しですが、塗りの後は若干のツヤ感も出ています。積層段差とざらついた感じの表面がマイルドになり、木目/繊維模様とそのテクスチャとして落ち着いた表情になりました。市販プラ管が竹のような茶色をしながら完全なツヤテカなのと比べると、だいぶんと新しい素材の質感をイメージさせてくれます。

 

管頭パーツの位置決めと固定

塗装が乾いたら、管頭パーツをはめ込んでみて試奏します。ここの差し込み具合が、特に大甲音の出やすさに顕著に影響します。
大甲の鳴りは塗装と歌口調整の段階でもやや改善していましたが、管頭パーツの位置を微調整したところ、0.5 mm ほど挿しきらないところがベストでした。今回は、歌口を管頭側に 1 mm ほど拡大しているのでその影響もあるかもしれません。

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管頭に金のライン。歌口はやや拡大している。

調整の結果明らかになったベストな位置で管頭を固定すると、管頭パーツと本体パーツの間にわずかに隙間ができます。
そこで、ここに φ 0.45 mm の真鍮線を一巻きして、これを挟むように押しつけながら管頭を接着剤で固定しました。
純白の笛に一筋の金色が入ることで、すっきりとした全容はそのままに申し分ないアクセントになりました。

管頭パーツの固定に関連したメモ:初回出力(一部ズレにより返品)と今回とで、管頭パーツと本体の填まり具合が明らかに異っていました。初回はクリアランス 0.1 mm では不足かと思われるほどきつく、力を入れて押し込んだらそのまま抜けなくなったのですが、今回は摩擦はありつつも容易に奥まで押し込め、軽い力で引き抜くことができました。

 

まとめ

出力されたままの篠笛の基本形となるナイロンパーツに塗りを施し、微調整して組み上げることで、鳴り良く、耐久性よく、美しく仕上げました。
適切な事後加工により、ナイロン素材の利点(音質面・価格面・ビジュアル面)を活かしつつ、竹とも市販プラ管とも特性の異なる、美しい篠笛が完成します。

  • 3Dプリントのナイロン素材の特徴が、良好な音質と質感をつくりだし、ユニークな篠笛ができました。
  • ウレタン塗装により粗めのテクスチャが落ち着き、高音の鳴りが改善しました。
  • 歌口部分の平滑化により音質が改善しました。
  • 歌口の拡大により音量が豊かになりました。
  • 管頭パーツの取り付け時に、別素材を挟むことでデザイン性を高めつつ大甲の鳴りを調整できます。

 

6. 命名、販売

雪風

これで、世界初の3Dプリント篠笛  “最初の一管” は完成です。
はじめて見る真っ白な姿は雪のようであり、吹き込みに応じて豊かに流れ出す音色を風に喩えて「雪風」と名付けました。
3Dプリント篠笛の最初の一管でありながら、調整された「雪風」の出来は良好で、6本調子を使うレコーディングの時にはぜひ持ち出して使ってみようと考えています。
これまでの笛の自作では、竹に一つ一つカッターで穴を開け、塗り、籐を巻き、余暇の時間で行うにしてはかなりの手間を掛けていました。本作品はナイロン素地を随時出力できることから、塗りまでの工程を大幅に簡素化されます。そこで、今後は仕上げ工程まで施した同型のものを複数本製作して、今回仕上げた「雪風」に相当するものがいくつか用意できた折には、何らかのイベントか、オンラインの創作系ストア/サービスへの出品も考えています。

雪丸

今回製作したモデルを DMM 3D のストアに登録しました。
出力ままの3Dプリントナイロン素材は軽く、その特性は本記事での仕上げ前後の比較にもあるように、呂音がよく響くものの大甲は難しい傾向にあります。調整して仕上げた雪風とは篠笛としての特性が異なりますので、名前も素朴に雪丸としています。雪風の子供時代というイメージ。

>>3Dプリント篠笛「雪丸」:唄用六本調子

寸法と形状の関係で素材はナイロンのみ受付。ここで発注していただければ私が受け取ったものと同様の素のナイロン製篠笛(2パーツ構成)が DMM から送料無料で直接配送されます。3Dプリントされた篠笛をすぐに試してみたい、ナイロン出力ままのものを吹いてみたい、独自の加工を施したい、という方はどうぞご利用ください。

 

7. 写真ギャラリー

銘とかいいから、完成した状態の全体像を見せてよという声があろうことと思います。できあがった笛が可愛すぎて、たくさん写真をとってしまったので写真が見やすいギャラリー記事にしました。

 >>写真で見る世界初の3Dプリント篠笛『雪風』(しましまPオリジナル仕上げ)

音色については早いうちに何らかの形で聴けるようにしたいと思います。


There are 2 comments

  1. mako

    はじめまして(*^^*)
    色々篠笛を検索していたら、こちらのサイトにたどり着きました。

    雪風…とても魅力的です。

    6穴、八本調子の笛なんて作成はさしておりませんかね…?

    もしあったら購入も検討したいと思うのですが…。

    1. shimakid

      もともと既存のプラ管にないところを優先して作りはじめたので、6本調子、5本調子、3本調子、1本調子と進みました。
      6穴ドレミは本管でも手をだしていない未知の領域なのでまだ手を出す予定はありません。
      6穴古典とすれば、むしろお囃子などで使う方がそれなりにいらっしゃるのかもしれませんね。検討します。
      大変スローなレスポンスで恐縮ですが、今後もまったり展開していくかもしれません。コメントありがとうございました。

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