生楽器の音源といえば、ギガバイト単位の膨大な波形を収録してプログラミングされた大容量サンプリング音源が主流ですが、リアルな音色を再現するための別のアプローチとして、物理モデリングがあります。
物理モデリング音源は、実際の発音や共鳴のメカニズムを計算により再現して音色をリアルタイムに合成します。楽器の材質や形状の違い、演奏時の強弱や楽器の状態(チューニングやペダルの操作など)の変化など、多数のパラメーターをもとに最終的な発音が計算されるため、モデルが優秀であれば非常に “生々しい” 音色変化や演奏感が得られることになります。
今回紹介するPianoteq はピアノの物理モデリングに特化した音源で、本物のピアノのような弾き心地が評判です。いくら物理モデリングで挙動を細かく再現するといっても、肝心の出音がどこまでリアルかわからないなあ、という向きもあると思いますのでまずは動画をひとつ。最新の Pianoteq 5 は出たてでチュートリアル/デモンストレーションビデオがなかったので、ver 4 のものを Youtube から。Ver. 5 もユーザーインターフェースや基本的な動作はほぼ同じなので参考になると思います。
いかがでしたか?
電子ピアノやシンセサイザーのピアノ音色が物足りない…と感じていた人は、Pianoteq の物理モデリングを体感してみると驚くかもしれません。以下の Pianoteq の特徴を見れば、サンプリング音源では再現できない生のピアノの挙動の多くがカバーされていることがわかります。
Pianoteq の特徴(Pianoteq 5: Technology ページより抜粋)
- 演奏者の鍵盤の叩き方、ペダルの踏み方に応じてリアルタイムに音色が合成される。
- 本物のピアノの複雑な要素を丸ごとモデリング(ハンマー、弦、デュープレックススケール、ペダル、キャビネット)
- ピアニッシモからフォルティッシモまで、連続的な音量・音色の変化。同等のことをサンプリング音源で行うには原理的に数百GB必要になる(Pianoteq はたったの35MB!)。
- モデルでしか再現できない豊かで複雑な響き
→ ハープの全ての絃の共鳴
→ デュープレックススケール(ダンパーなしの絃が共鳴に加わる)
→ 絃同士の共鳴
→ 打鍵時のダンパー位置の違いによる影響
→ スタッカートや、打鍵直後にサステインペダルを踏んだ時の音の持続(リペダリング)などの特殊な効果 - 既に振動している弦をハンマーが叩くことによる連続打鍵時の響きの変化
- リリースベロシティ(離鍵速度:鍵盤をもどす速さ。音の消え方に影響する)
- 8種類のペダル(4つのペダルUIに割り当て可能)
→ Progressive sustain pedal:ハーフペダルが可能。クオーターペダル、1/10ペダルなども可能。
→ Sostenuto pedal:サステインペダルを踏まずに幾つかの音を鳴らし続けることができる。
→ Super Sostenuto pedal:sostenuto された鍵盤をさらにスタッカートで演奏できる(本物のピアノでは不可能)。
→ Harmonic pedal:サステインペダルの共鳴をのこしたままスタッカートを演奏できる。
→ Una corda pedal:ソフトペダル(soft pedal) とも。ピアノアクションを右にずらして音質・響きを変化させる。
→Celeste pedal:ハンマーと絃の間にフェルトが入りソフトな音になる。アップライトピアノによくみられる。
→Rattle pedal:バスーンペダル(bassoon pedal) とも。 Kremsegg collection の Besendorfer など一部の歴史的ピアノにみられる。羊皮紙が絃と接することによりバスーンのようなノイズを出す。
→Lute pedal:一部の歴史的ピアノにみられるペダルで、フェルトで覆われた木の棒が弦に押しあてられ、音を減衰させ短くする。 - 蓋の開け具合による音色の変化
- さまざまな演奏ノイズ
→離鍵ノイズ(音の長さと離鍵速度により異なる)
→離鍵時のダンパーノイズ(主に低音鍵)
→サステインペダルノイズ:弦から一斉にダンパーが離れたり降りたりする際に、ペダルを押す速度に応じて “シュ” というノイズが発生 - マイク位置の選択と、マルチチャンネルミキシング(最大 5つのマイク、5チャンネル)
- マイクロチューニングと scala フォーマットファイルの読み込み
- 多数のエフェクト:イコライザ、ベロシティ設定、音量、pp〜ffの音量レベルを調節するサウンドダイナミクス、残響量・時間・部屋の大きさを調整できるリバーブ、リミッター、トレモロ
実際に自分のマシンにインストールして演奏してみたい:体験版ダウンロードページ
体験版での制約は、一部の鍵盤の音が出ない&連続20分までの時間制限(起動しなおせばOK)がありますが、演奏の具合を試すには十分です。
MIDIキーボードがなくても、UIの鍵盤をマウスで押したり、内蔵の演奏フレーズを再生させていろいろな音声をカッコ良く自動演奏させることもできるので、「たった35MBの物理モデリングソフトで本当にうちのパソコンがグランドピアノになるの?」という好奇心で試してみるのもアリ。
shimakid が DAW を起動して作曲するときも、軽量で反応のよい Pianoteq をまず立ち上げています。Pianoteq 4 Stage からアップデートしちゃおうかなあ…。(肝心のピアノ演奏はバイエルレベルなのですが…。)
実際にオリジナル曲でも使ってます↓
国内では Media Integration が取り扱っています。
追記:
世界初の3Dプリント篠笛「雪風」の演奏デモで Pianoteq 5 を伴奏に使用しました。 http://simasima.info/archives/3325